永遠の霧

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「…―――っ」 耳の奥に響く、木と木の擦れる高い音。 無言で立ち上がった彼女を、何気なく見上げた。 「あたしも―――――」 開きかけた彼女の口は、その先の言葉を飲み込んでしまう。悔しそうに、苦しそうに。 その瞳には夕日色に染まった海岸線が映りこみ、僅かに潤いをもつ。 一体その眼差しの向こうに、誰を探しているのだろうか。 「だけど、非現実かあ…素敵だけど、ちょっと怖いです」 多くを望むと、何か大切なものを失いそうで。 泣きそうな目を細める。 「犠牲の上に成り立つ”何か”はもう、懲り懲りなんです」 「何かを、失ったことがあるのかい?」 「…大切な人を。掛け替えのない人々を、沢山」 海はあっという間に夕陽を飲み込んでいった。 暗くなっていく部屋の中で、僅かにこぼれた涙が光って滑る。彼女は静かに、平凡に、息をひそめていきたいと言った。 今まで傷つけてきた人が多すぎて数えきれないから、これからは誰も傷つけずに済むように。誰にも迷惑のかからない生き方で。 涙の流れる頬を拭う手を、彼は思わず掴んで引き寄せる。
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