永遠の霧

9/12
前へ
/20ページ
次へ
それは、 【傷の嘗め合い】 と呼ぶにふさわしく しかし恐らく 互いの傷を抉り合うだけだっただろう。 彼の腕の中で彼女は彼の知らない名を呟き 彼もまた彼女が知らない人の名の人を思い浮かべていた。 「誰かがやり直してくれればいいのに」 彼女は星の浮かぶ空に向けて、ポツリと吐き出した。 タンクトップから伸びる白い腕には、美しい容姿には似つかわしくない無数の傷が露わとなっており、それは彼に、彼女の壮絶な過去を想像させる。 色はすっかり同化しているが、ぷっくりと膨れた痕。 幼く、弱かった自分の幼少期とダブり、頭を振ってその記憶を振り払った。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加