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一部の人間のみが立入りを許される秘密の街では、人や、人ならざる者が毎日お祭り騒ぎに盛り上がっている。
少年は、静かにその地へ足を付けた。
「空の守り人、此処が嘘の街かい?」
「おうよ。どうだ、賑やかなところだろう。何かをはじめ、終えるにはもってこいの場所だ」
「うん。いい感じにトチ狂った街だ。植物が人間に理解できる言葉を喋るなんて初めてだよ」
「お前は運がいいよ。多くの旅人が此処を目指すが、誰でも中に入れるわけじゃない。声が聞こえるのはモトリが街に認められた証拠だぜ」
ニカッと白い歯を見せる男の背後には、青々とした龍が静かにとぐろを巻いている。
空気を吸い込めば全身の血が入れ替わるような爽やかさを理解しているのか、深呼吸を繰り返しているようだ。
「ありがとう、守り人。ドラコも」
辺りを見回す。
口の無い花から滑らかなメロディーが漏れ出るというのも、実に奇怪かつ美しいものである。
風は生き物のように自由に物を攫い、運んでは元に戻す。
集まって酒を煽っている人の形をした者たち。
祭り囃子を奏でるのは辺りの雑草。
「昔々の話さ」
守り人が話す伝説。
多くを望み、多くを拒んだ奴らがいた。
そいつらは陽の当たらない一角で密かに暮らしたそうだ。
受け入れられない現実から自ら遠去かり、理想だけを集めて孤立したコミュニティーを形成した。
社会は認めない、自分たちだけの世界だ。
数人の小さなコミュニティーだったその一角はいつしか肥大化して行き、気づけば一つの街を丸ごと飲み込んでしまっていた。
それが、どうやらこの街の始まりらしい。
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