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大きな龍が消えた碧い空を暫く眺め、大きく息を吸った少年。
さて、と肩の力を抜く。
「お義父さん、お義母さん。ついに来たよ、嘘の街……2人から聞いていた通り、まさに地球の端っこだ」
ここを過ぎれば東西南北どちらに進んでも異世界に入る、現実と架空の狭間である。
そう彼に教えたのは彼を育てた大人だった。
《そこから、自分探しの旅を始めなさい》
何でもいい。何かになり、何かを成し遂げなさい。
自分だけの何かを見つけなさい。
義父も、義母も厳しく優しい人達であった。
「《何でもいい》、ねえ。自分たちは名前も教えないくせに」
「……?」
背後から鼻で笑うような声が聞こえ、首をかしげ気味に少年、モトリは振り返った。
その人は空を見つめて物思いにふけっており、モトリが振り向いたことを気にも留めない様子である。
「自分の理想が、必ずしも子の理想とは限らない」
ゆっくりと動く尖った顎。
右目の眼帯を繋ぐ紐は、頭の後ろで靡いている。
穏やかな人だ。
「そうでもないさ。僕は生まれも育ちも汚い」
「え?…君、考えていることがわかるのかい?」
「……」
その人は答えない。それどころか、聞いてすらいない様子だ。
一体何者なのか……もしかすると、能力者なのだろうか。
疑りの目で観察する…………ふわりと緩んだ口元。
「僕はキョウ。そこらで薬屋をやってる元・人間…」
「モト……」
「…今は能力者。人の形をした化け物と同じさ。旅人、ところで君は、“ひとの居ない”この街で、何を始めたい?」
【元】という言葉にいも解さない様子で彼は続ける。
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