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差し出されたキョウの色白で細い手、骨の浮き出た不気味な指先。
頭から欲望を引き抜くように、人差し指を少年の額にあてた。
脳内再生される昔々に起こったひと夏の悲劇。
何だこれは?という言葉を待たずして、彼は長い昔話の説明をする。
長すぎるその話は、残念ながら少年の小さな脳には半分も収まらなかったが。
「歴史は繰り返す……とはよく言ったもので」
キョウのニヒルな笑みが青白い顔に際立つ。
亡くなった人の強い後悔は、自らの魂を其処に遺し彷徨い続けることもあれば別の者に託され本人は次の人生へと進む場合があるという。
そして嘘の街は後者を全面的に支援しており、選んだ者の新たな物語のスタートを中継している。
SFチックな話だ。
「能力を手に入れても尚、人びとは自分が中心の世界を望む。人の欲望には果てがないね」
モトリ。
彼は名乗ってもいない少年を呼んだ。
「ここから先は、君が君自身を見つけるための旅だ」
野原では相変わらず、草木が鼻歌を口ずさんでいた。
それらをかき分けるように花が芽を出すと、ずらりと並び、先には遠く小さな扉が見える。
さあ、おいで。
葉がそう手を差し伸べているようにも見える。
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