帰郷

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私の両親は幼い頃に離婚をしており、父に引き取られた私は忙しい父の代わりに祖父母に育てられた。 幸い、祖父母は優しい人達で両親の揃わない寂しさこそあったものの、何不自由する事なく過ごす事が出来た。 それでも母が作る冷やし中華は、何が入っていたのだろうか、とても美味しかった記憶があり、決して祖母の作る料理が不味かった訳ではないのだが、いつも夏になると母親のいない寂しさが募って仕方がなかった。 母親だから、1年を通して様々な食べ物を作ってくれていた筈なのに、何故冷やし中華だけが記憶に残ってしまったのか。普通ならば玉子焼きだとか味噌汁だとか、年中食べていた物が記憶に残るはずなのに。 記憶に残る母の冷やし中華は至って普通の盛り合わせで、胡瓜や薄焼き玉子、それにハムが細く切られ、綺麗に盛り付けがされていた。あと、トマトも忘れてはいけない。そんな普通の盛り合わせにおそらく母の手作りだろうタレがかかり、何杯でも食べる事が出来た。 今さらになって、こんな事を思い出すのはきっと夢を見たからだ。 夢の中で私はまだ幼く、台所に立つ母親の背中を見ている。扇風機は熱風しか運ばず、私も母も汗を流しているが、幼い私はそんな暑さは気にとめる事すらない。 窓の外からは煩いくらいの蝉の声が聞こえてくる。 「はい。**ちゃんの大好きな冷やし中華よ」 母の顔は覚えていない。ただ、赤い唇だけが歪み、中から白い歯が見える。
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