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いったいどれほどの時間、汽車に乗っているのだろう。
風景は変わらず、太陽の位置さえ変わっている気がしない。
それよりも、この汽車が最後に駅に停まったのはいつだ?
パニックに襲われた私は立ち上がり、運転士の元へと向かう。
しかし、扉を隔てた運転士はこちらの呼びかけには気付かず、深々と帽子を被ったまま、ひたすら前を向いて運転を続けていた。
ディーゼルエンジンの音がいつしか大量の蝿の羽音になり耳元でブンブン唸る。
もしかしたら、離婚して私のあずかり知らぬ場所へと行ってしまった母親が死んで、ずうっと一緒にいる為に私を誘おうとしているのかもしれない。
ツンとした腐敗臭が背後からする。
「ちゃあんと神様にお願いしておいたからね」
ずるりずるりと何かが動く音が私の方に近づいてくるが、私は振り向く事すら出来ない。
湿った手が私の肩に置かれる。
「運転士さん!」
恐怖のあまり、私が叫ぶと運転士は私の声に初めて気付いたという風に振り向いた。
「大丈夫ですか?」
運転士はこちらの状況が何も解らないかのように笑顔で訪ねる。
解らないはずだろう。
運転士の顔には笑う唇以外、目も鼻も存在していなかった。
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