第1章

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横断歩道で信号が変わるのを待っていた時に、赤信号に気づかず突撃してくる子どもが見えた。 年の頃は四、五才くらいであろう子どもである。 僕自身も大人から見れば子どもであろうけれど、彼ほど小さくはない。 彼は信号無視による恐ろしさを知らないと見える。 直ぐ側のトラックが痛みによる教訓を与えてくれそうではあるが、無情なことに彼の体はその痛みに耐えることは出来ずに、教訓を知る頃には挽き肉にされているであろう。 僕からすれば、全くの赤の他人で、信号無視をするという大悪人であり、助ける義理も義務もない。けれども、僕はハンバーグが大好物で、今日の晩ご飯もハンバーグの予定だ。目の前で挽き肉になる彼を好物を食べる度に思い出すのは、気分が悪くなりそうだった。 だから、僕は彼を助けたのだった。 人には理解されることのない力を使って。
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