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「あと十秒な。じゅーう、きゅーう」
周囲には人っ子一人居なかった。夕暮れ時の街外れの公園。隣接する川の水面は夕陽が反射してとても綺麗だった。と、幼い僕ですら思える程、この付近の景色は綺麗だった。
でも今は、潤んだ僕の瞳のせいだろうか、全てがぼやけてしまっている。心なしか烏の鳴き声も三人衆の応援をしている様な、そんな風に聞こえてしまう。
「わ、分かったよ。降りるから。降りるから鞄はやめて!!」
「だったら早く降りてこいよー。もちろん、ぼこぼこの刑は決まってるけどなー」
背筋が固まる。これを戦慄と言うのだろうか。
活字を読むのは好きだった。今はまだ小学五年生だけど、僕は人一倍たくさんの本を読んで育って来た。だから国語に関して言えば、他の同級生よりも知識は豊富だと思っている。……国語だけ、だけど。
何故今日なんだ。
今日はその鞄の中に僕の一番お気に入りの本が収まっている。一番好きな作家の人の、一番好きな小説。僕の、宝物。
お小遣いは月々ほんの僅か。
それを二ヶ月分もつぎ込んでようやく手に入れた大切な本。川に流されてしまえばもう二度と読み物にならないかもしれない。そんなの、絶対に嫌だった。
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