第2話

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「あの、あとは適当に回りますので、大丈夫ですよ?」 恐らく桐谷さんの知り合いだと思われるが、ずっと一緒に回られても困るので切り出してみた。 「でも俺はもう少しあなたとご一緒したいな……」 と意味深な笑みを浮かべて瞳をジッと見てくる。 続けて彼が何かを言おうとすると「イケメンはこれだから注意しようね、お嬢さん……」 後ろを振り返ると、スーツをきっちり着ている年配の男性が声を掛けてきた。 「あなた一人がお嬢さんを占領してるから、彼がこっちに来そうな勢いの目つきで見てますよ」 全然視線なんて感じなかったが、仕事モードの彼を見た私は怖くなり、そしてこの男性が言ってる『彼』が桐谷さんだと思うと、その方向を見る事が出来ない。 「沢山食べましたか?」 「はい、デザートまで堪能してしまいました」 この人も桐谷さんの知り合いなんだろうか? でも目を細めて優しい笑みを見せてくれているし、スーツの生地や着こなしを見ると紳士にしか見えない。 「ちょっとテラスで風に当たりませんか?気持ちいいのですよ」 「でも……」 あまり桐谷さんから離れて心配を掛けたくないし、年配とはいえ見知らぬ人について行くのも危険な気がする。 「彼はもう少し時間がかかりそうだし、ベンチもあるので座りましょう。歳なんで疲れてしまって……」 そう言うとテラスの方にスタスタ歩き出すので、後を追うようにつられて私も出てしまった。 そこは比較的人も少なくてゆったりした場所で、男性が言うように外の風が頬を撫でてくれて冷たくないし気持ちいい。 少し経つと男性が「あなたは宝石関係の方?」と聞いてきた。 「いえ、今日はパーティにお誘い下さってついて来た感じです」 「宝石に興味があるの?」 確かに桐谷さんに誘われた今日のパーティは、取引先の人も来るって言ってたし、私が誘われたなら宝石に興味があると思われても仕方ない。 この集まりは桐谷さんの職に関係あるジュエリーで繋がっているという事だ。 なのでミセス達……というか顧客がデザイナーの桐谷さんに話しかけていたのだと頷ける。 「宝石というか……石を見るのは好きです」 「まだ若いのにちょっと変わってますね、その年頃ならジュエリー好きでもおかしくないのに」 ジュエリーや石について話をしていたら知らない間に時間が過ぎ盛り上がっていた。
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