第1話

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「例えば……気になる人が二人いて、その人達が友達だったらどうする?」 例に挙げてるつもりが、そのまますぎて逆に神崎君が一瞬黙った。 「……三角関係ってヤツですか?僕なら揉めるの嫌だし、面倒なんで逃げるかもです」 逃げるのは『触らぬ神に祟りなし』という事で、つまりどちらかに決めない方が平和に終わると遠回しに言われている気がした。 「本当に好きなら付き合うかも知れませんが――佐々木さんに勇気がないなら、逃げてしまうという手もありますよ」 『例えば』は無視されてダイレクトに名指しされてしまっているので、今更取り繕っても仕方ない気がした。 「ウチの会社転勤できるじゃないですか、異動願い出して仕事に打ち込むとか?僕としても嬉しいし」 ある程度年齢を重ねてから知らない土地で暮らすのも勇気がいる。 友達もいないし、顧客もいない状況で、イチから売り上げが取れるのか等考えると、逆にストレスになる気もする。 「佐々木さんが大丈夫ならいいですけど――ってゆうか、僕が異動願い出して一緒に勤務したい位ですけどね」 「いやいや、話がややこしくなりそうだから」 これ以上拗れてしまったら、自分の中で収集がつかなくなって、それこそ逃げ出したい気分になりそうでゾッとしてくる。 「とんでもなく縺れるのも、面白いかもですけどね」 天使のような顔をして、にこやか毒づく彼も、将来は小悪魔になりそうだと苦笑いしてしまう。 神崎君は身体を起こすとテーブルに戻り、ジュースをクイッと飲んでからポツリと呟く。 「お酒も入らず、こんなに話したの久々です。女性が多い職場なんで基本本音は言わないよう心がけてるので」 「あ、それ賢いかも。すぐ広まったりするから、私も悪口に聞こえるような事は言わないようにしてる」 何となく気持ちがスッとして、私もベッドの隅に腰をかけた。
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