第4話

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「もぅ、やっぱ興味持ったよ……」 ブツブツ言いながら渡部さんも横に並び歩いている。 何とか手を振り解き失礼のない範囲で断っているが少しくらいいいでしょう食い下がるので、苦手な人が二人に増えた気分だ。 『なんでたっくんの名前が出るとこんな過剰に反応するんだろう』と不思議になって思わず口を閉ざした。 「だから、連れがいるんだからガツガツ来るのは止めてくれる?」 後ろを振り向くと仕事のモードの顔で、冷ややかな視線を送る彼が立っていた。 「だって興味津々でさ、良かったら桐谷も一緒にどう?」 「絶対嫌だ」と微笑とは裏腹に即答で答えていた。 私を見るといつもの目に戻り、行こうかと手を出してくれたが、ぎこちなく握り返していた。 お仕事お疲れ様でしたとこっそり伝えると、また困らせてしまってごめんと言いつつ彼の方が弱った顔をしている。 「今日の立食のスイーツで凄く美味しいのあったよ?」 話題を変える為に言ってみると「どれ?」と早速話に食いついてくれ、二人で会場に戻った。 更に取って彼に渡すと気に入ってくれたみたいで、すぐになくなったので私も二回おかわりとしたと伝えると、笑いながら取りに行っていた。 二人でいると他愛のない会話でも楽しくなり、会場を出る頃にはさっきまでの事はすべて取り消しになった気分だった。 車に乗り私の家に荷物を取りに行く途中に彼がポツリと呟く。 「メイちゃん髪凄く似合ってる、前の長いのも良かったけど雰囲気も違っててドキドキした……」 「有難う、田口さんのとこで切って貰って頭が軽くなったよ。たっくんに褒めて貰えると嬉しい」 どう思ったのか気になってドキドキとしていたし、イメチェンとはいえ三十センチも切って前の方が良かったと言われるとズキンと胸が痛みそうだ。 「綺麗になるのはいい事だけど、誘惑も増えると困るな」 「私というより、さっきの人達はたっくんに興味があると思うけど」 「いや、アイツら絶対メイちゃんに興味を持ってる!なんか腹立つ」 ハンドルに手を置いたまま頬を膨らませ、そんな風に妬いてくれる姿も可愛い。 ――でも、私たっくんしか見えてないんだよ。 直接言うと照れて赤面してしまうので、この気持ちがテレパシーで通じればいいのにと横顔を少し見つめていた。  《三章へ》
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