第1話

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「もしも――し!人の話を聞いてます?」と切電後の電話に一人で話しかけていた。 とりあえず時間がないので、ハーフパンツにフードが付いている軽い羽織でも引っ掛けて出るしかない。 髪を一つにまとめて何とか誤魔化し、スッピン以外は外に出れる格好に違和感がないように気をつける。 着いたとメッセージが入り、仕方なく降りてみる。 「こ、今晩は……でもスッピンなんですけど」 「――乗って!」 久しぶりに桐谷さんに逢った気がするのは、以前に制作でこもると聞いて以来だからだと思う。 相変わらずシトリンのように清々しいイケメンだが、若干髪が伸び、何となく雰囲気が変わった気がすると、横からさり気なく観察していた。 「出張よくあるの……?」 「いえ、今回は新店オープンでたまたま呼ばれただけです」 車は少し走ってから小高い丘でスピードを緩め、停車してからサイドブレーキが引かれた。 「適当に買ってみたから好きなの選んで」 「あ、私……買った物持ってくるの忘れてました」 急いでいたので持参するのをすっかりと忘れてしまっていた。 「いいよ、一応二人で食べれる位は買って来てるから」 クスッと笑われたのに気づき、俯き加減でドリアを手にしてお礼を言うと、桐谷さんはおにぎりを何個か手にしていた。 「いただきます……」 窓を少し開けると夜風が頬を撫で、食べながら遠くの明かりを見ているとコンビニ食といっても贅沢な気分になってくる。 桐谷さんも無言で夜景を見つめ口をモグモグとさせていた。 「今までデザイン考える時、お客様の雰囲気とかオーダーに沿えるようにが第一だったんだけど、今回はメイちゃんの事がチラついて……」 「……それって、仕事にとっていい事なんですか?」 何となく責任を感じてしまい手が止まる。 私なんかが浮かんで、いい案が出るのだろうかと不安にもなった。 「凄く褒めて貰えたよ?自分の可能性も広がってる気がするし、ジュエリーは女性が身につける事が多いのに、関心ないのも違う気がしたし」 「はぁ……な、なるほど」 悪くないならいいが、繊細なデザイナーさんに、変な影響を与えてなければいいがと内心ドキドキしていた。
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