第1話

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「大幅に仕事に影響してる訳じゃないから、そんなに気にしなくていいよ」 ちょっと不安な表情が出ていたらしくそう言われてしまった。 「ねえ、出張ってどんな事してきたの?」 今まで仕事の話なんて聞かなかったのに、どうしたんだろうと思いながら、仕事内容を掻い摘んで話し始めた。 時折相槌を打ちつつ聞く桐谷さんは、二個目のおにぎりを黙って食べていた。 話を聞いてるのかよく分からず、ずっと外の景色に視線が置かれこちらは向いてくれない。 何か別の事を話したいけど、きっかけが掴めないようにもとれたので、もしかして、佐藤さんとの出来事を知ってしまったのかと過る。 そうだとしたら確かに言い出しにくい気がする。 出張での話をしながら頭ではそんな事を考えていた。 「まあ、そんな感じで慌ただしく帰って来たん……」 「――俺、メイちゃんと離れたくない気持ちが強くなって、制作の時も何か寂しかったんだよね」 やはり私の仕事の話は振りだったようで、全く入っていかなかったのが分かり一人で納得していた。 「ねえ、俺じゃダメ?――俺にしてくれない?」 静かな車の中、こちらを見つめた桐谷さんの視線が熱くて、心臓の音がバクバクと騒いでいる。 「佐藤はいい男で女心も熟知してるし、魅かれるの分かる。俺が不利なのも分かってる……けど、メイちゃんだけはどうしても諦めたくない」 想いを伝えてスッキリしたが何処かで断られると思ってるのか、切なく揺れる瞳が苦しそうで辛そうで……こちらが耐えれなくなりそう。 「その眼も、その唇も、その手も……全て俺だけの為で居て欲しい」 ――ゾクッと全身に鳥肌が立った後、ゆっくりと桐谷さんと目を合わせる。 こんな台詞を言われ慣れない私は、咄嗟の判断に困り、車内が暗いので顔が茹でダコみたいに赤くなってるのがバレない事だけは助かっていた。
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