龍胆紫(ロンタンツー)

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「……あぁ腹減った」 感傷的に景色を眺めるのもいい加減にして、そろそろ今夜の相手を探さなければならない。 でないと保は、窒息の前に飢え死だ。 携帯を片手に、保はつらつらと食事を奢ってくれそうな相手を頭に浮かべる。 フランス料理ならアケミ、チエはイタリアンが好きだ。 和食でいい店を知っていそうなのは秋山で、寿司なら高木。 中華もいいな。 あのねっとりとした豆の辛さがクセになる、四川料理と李水連の顔を思い浮かべた。 細い目に丸い体、イモムシのような太い指をした男。 このあたりの四川料理チェーン店の総支配人だが、料理よりも短い指を駆使して保の体を愛撫することを好む。 「うーえぇ……、胸焼けしそうだ」 どんな高級料理も思いのままだが、そのあとの代償は保の身体。 食事の後にはベッドを共にする。 宇堂保は高級男娼だ。 この19年間のほとんど年月を、そうやって生きてきた。
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