魔法の電子レンジ

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上京してから数か月が経ち、世間は甘くないと知る。 私が就職したのは大手チェーン店の飲食店。 そこの従業員として働いていたのだが、慢性的に人手不足で新人であろうと朝から晩まで働かされた。 休みもほとんどなく、現在10連勤中だ。 この生活が一体いつまで続くのだろう。いくら若いからと言って体力にも限界がある。 憧れの東京生活を満喫することも無いまま、仕事に行っては帰って寝るの繰り返しに生きる意味を問いただしたくなる。 「もう1人私が居たらな」 もう1人私が居れば、今よりも多く休めるし自由な時間も増える。 現実的でないことは分かっていたが、こういう妄想でもしていないと倒れてしまいそうなほど疲れていた。 テーブルに身を預けるような形で座っていたが、疲労で耐えられなくなりそのまま体を後ろに倒す。 逆さまに映るキッチン。無意識のうちに視線は電子レンジに向かう。 「まさかね」 いくらあの電子レンジでもクローン人間は無理だろう。 何度も理性が本能を抑えようとするが、妄想は止まらない。 一度だけ試してみよう。どうせ出来る訳は無いのだから。 そう思い立ち、私の髪の毛数本と皮膚の一部、そして写真を電子レンジに入れた。材料は何となくこんなものではないだろうかと想像して。 作成ボタンを押す。中の材料が回り出した数秒後、内部は白い煙で覆われる。 5分後チーンという音が鳴り、私は蓋を開けた。 白い煙が外に溢れ出す。何だかいつもより量が多い。 煙がおさまる気配は無く、どんどん溢れ出し部屋はあっという間に真っ白になった。 どこからともなく説明書が風に舞い、電子レンジの前にすうっと落ちる。 ※何でも作れちゃうけど、人間は絶対作っちゃダメ(>_<) 人間を作ろうとすると電子レンジの中に吸い込まれて、 一生その中で働くことになるから注意してね♪ 煙がおさまった部屋に住民の姿は無かった。
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