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「引き合ったのかしら。それも一興」
ひとり納得しているが、やはり高広にはわからない。
「あんたねー、何言ってっか、さっぱりわかんねーんだけど――」
高広は握りなおした懐中電灯を手の中で
――クルリ――
と回す。
それまで正面を向いていた光の輪が、一気に高広の方を向いて、LEDを警備服の腹に埋めてしまえば、辺りはほぼ暗闇の中に沈む。
『早いモン勝ち!』
心の中で呟いて、高広はすばやく台座へ手を伸ばした。
自分の方が、女より猫に近い。
『銀の猫』をこの手に捕まえた、と思った。
捕まえるはずだった。
しかし、
――何もない――
スカッと音のしそうな勢いで高広の右手は空を切り、さっきまで確かにそこにあったはずの猫の彫像が、忽然と消えていた。
代わりに、
「忘れないで。彼女の名前はハディーヤよ」
闇の中で女の声がした。
ひとり残された高広は、我に返って慌てて人を呼ぶ。
博物館はすぐに大騒ぎになった。
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