1 博物館

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秋場高広はずっとこの日を待っていた。 博物館の春の特別展、先行取材が解禁になる日。 今日までは、目玉展示品の『ファラオの黄金仮面』の全貌をマスコミ各社に明らかにしないため、『黄金仮面』を置いた地下の収蔵庫の警備も厳重だった。 警備員パスを持っていれば、収蔵庫に入ることはできるのだが、 見回りの同僚が一緒では、いくら高広でも、お目当てのものに、安易に触れてみるわけにもいかない。 『それ』は誰にも注目されなくとも、『黄金仮面』と一緒に、はるばる海を越えてやってきた文化遺産なのだ。 しかし今日、『ファラオの黄金仮面』は展示場に引きずり出され、除幕式が行われた。 華やかなフラッシュに囲まれる『黄金仮面』を尻目に、『それ』は展示場の都合とやらで、暗い収蔵庫に残された。 閉館時間を迎えた博物館で、高広が薄闇の中、雲を歩くような足取りで向かうのは、 『黄金仮面』が去った後の、暗い暗い地下の収蔵庫。 そこで『それ』は高広を待っていた。
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