クラブ・キャッスル

3/10
前へ
/17ページ
次へ
 ついさっき、カズは僕のことを「『キャッスル』のナンバー1」と言った。『キャッスル』というのは僕たちの所属するクラブの名前だ。ただ、僕は「ナンバー1」ではない。  一番の売れっ子なのは、カズの方だ。ちゃらく見られがちだが、意外と気配りの人である。常連さんが入院したりすると、旦那さんのいない時を狙って、サプライズで花束を届けたりするらしい。僕には照れくさくてできない芸当だ。 「シュウさんが物欲に目覚めて本気で働きだしたら、俺なんかメじゃないっすよ」  カズは以前そんなことを言ったが、お世辞でないなら買いかぶりだ。 「カズが電車に乗るなんて珍しいな。お客様からもらった赤のロードスターはどうしたの?」 「デート以外では使いませんよ。今日はシュウさんを見習って電車通勤ですからね。一般人の感覚を失わないようにしないと」  カズはニヤリと笑って、僕の顔を指差した。 「覚悟してくださいよ。そのうちシュウさんを丸裸にして、秘密をすべて暴いてやるっすから」  すれちがう女子高生たちがクスクス笑っているのは、しきりにカズが僕にじゃれつくせいだ。彼女たちの口から、「BL」という単語がもれる。  とんだ誤解だ。勘弁してもらいたい。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

850人が本棚に入れています
本棚に追加