850人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい、離れろよ。人が見ている」
「何が恥ずかしいんすか。俺はシュウさんのことが大好きっすよ」
とたんに女子高生たちから、「キャー」という声が上がった。もういいかげんにしてくれ。カズが彼女たちに手を振って愛想を振りまいているうちに、僕は駆け足で逃げ出した。
「シュウさん、やっぱり俺に冷たいよっ。それって、愛情の裏返しっすかぁ」
カズが大声を出しながら追いかけてくる。ただでさえ目立つルックスなのに、ますます注目を集めてしまう。
飯倉片町の交差点を右に折れると、下りの坂道になる。外国の大使館やマンションが立ち並んでいる一角だ。ジョギングのようなスピードで下っていくと、5分もかからずに〈六本木アランフォード〉の前に到着する。
分譲マンションだが、あまり生活臭は感じられない。すべての部屋が住居ではなく、オフィスとして活用されているからだろう。ちなみに、最上階フロアは『キャッスル』だけで占められている。
エレベーターホールに、もう一人の同僚の姿があった。
「タクマさん、おはようございます」
僕が声をかけると、長身の青年が振り向いた。真夏でもブランドスーツを着こなし、縁なし眼鏡がトレードマーク。「広告代理店のプランナー」と紹介されても納得してしまう隙のなさだった。
最初のコメントを投稿しよう!