850人が本棚に入れています
本棚に追加
「猛暑日にジョギングでもしてきたのか? 物好きなヤツだな」
タクマさんが呆れ顔を見せたのは、僕の後に駆け込んできたカズに対してだ。息を切らして、整った顔に汗の玉を浮かべている。
「シュウさん、どうしてそんなに涼しげなの? 汗ひとつかいてないじゃないっすかぁ」
カズが恨みがましく僕を睨む。
「走っている時に、汗腺を閉じたからね」エレベーターが到着したので、僕は乗り込んでから説明を続ける。「心と身体は結びついているんだ。少し練習すれば、汗ぐらい簡単にコントロールできるよ。カズもやってみるといい」
「そんな器用な真似はできませんよ。ねぇ、タクマさん」
「俺はできるぜ。ベッドで一戦を交えている時、汗まみれは美しくないだろう」
「そんなことないっす。“あらぁ、カズったら私のために、そこまで頑張ってくれているのねぇ”ってなもんですよ」
「ふん、美的センスの差だな」
「あ、タクマさん、今、俺のことをバカにしたでしょ」
わいわい騒いでいるうちに、エレベーターは最上階に到着する。
『キャッスル』が占めるフロアは、一種独特な雰囲気に包まれている。内装や家具,装飾品,カーペットのすべてが、アールデコ調のデザインで統一されているせいだ。ヨーロッパの古城に迷い込んだような錯覚を覚える。
最初のコメントを投稿しよう!