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僕らの仕事は人気商売だ。その点はタレントや俳優と似ている。もし売れっ子になって、周囲からチヤホヤされれば、誰だっていい気になる。でも、人気なんか一過性のものだ。一喜一憂すべきものではない。
自信過剰になったり自分を見失ったりして消えて言った連中を数多く見てきた。そうならないために、僕はごく普通の感覚を大事にしている。
「シュウさん、今、何を大事にしているって言ったの?」
ロアビルの前に差し掛かったところで声をかけられた。
「シュウさんのために忠告しますけど、歩きながらブツブツ言っている姿は、『クラブ・キャッスル』のナンバー1でもキモいっすよ」
僕は平然と切り返す。
「へぇ、スパイごっこがマイブームなのか? 事務所に着くまで黙って尾行できないとは、スパイ失格だね」
「何だ、尾けていたことに気づいてたんすか?」
「日比谷線で一緒だったね。隣の車両からチラチラ見ていたから、すぐ気づいたよ」
「いやいや、気づいていたんなら、声をかけてくださいよ。冷たいなぁ。ひょっとして俺、嫌われてます?」
そう言ってふくれっ面をしたのは、短い髪を金色に染めた美少年だ。
一つ年下の同僚、カズ。断わっておくと、本名ではない。僕のシュウと同じく、仕事用の源氏名である。
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