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──6月3日。
「ほら、手を貸して」
駅の改札を出て、少し先を歩いていた佐伯主任が立ち止まり、私に向かって左手を差し出した。
これが、彼が仕事モードからプライベートモードに切り替わる瞬間なのだと思う。
そして私は周りをちょっと気にしながら、おずおずと右手を差し出す。
その手を取られ、素早く指を絡ませられた。
あまりの行動の早さに『遅い!』なんて怒られやしないかとビクビクしてしまうけど、そんな私を見透かしたかのように
「なにビクついてんの?誰も見てないから心配すんな。……そんな姿、仕事中に見られないから新鮮だけど」
「え……そう、ですか?」
それは私も感じていた。
仕事中にビクビクすることなんてないし、最近毎日のように主任が家まで送ってくれるようになって、どういう態度でいたらいいのかが分からなくて困ってる。
それが新鮮なの?
「ところで、修から連絡あった?」
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