第1章

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わたしは歌うことが好きだ。 しかし、わたしは音痴でリズム感もないときてる。 悲しい奴である。 とある駄菓子屋で、カナリア飴なるものを見つけた時は、深く考えず買った。 買った時、店主のおばさんがニコニコしながら 「カナリアは一日一個にしないと駄目よ」 その時は甘いモノは食べ過ぎるなということだと、単純に思った。 黄色に砂糖をまぶしたカナリア飴を頬張る。 意外と美味しい味に満足して、何時ものように歌いながら帰ろうかとした途端、なにかうまく言えないが何時もと違うことに気づいた。 「はい?」 声が違うのだ。 ハイトーンボイスでまるで鳥のよう。 「なにこれ!」 試しに有名で難曲な歌手の歌をうたってみる。 高音も楽々と出て、まるで自分の声じゃないみたいだ。 わたしは意気揚々と好きな歌をうたい。いつの間にか周りの注目を集めていた。 それ以来、わたしはカナリア飴の常連になった。 好きな歌をうたって周囲にも喜ばれる。 それが快感だった。 ある日、いつものように駄菓子屋に行くと空き地になっていた。 わたしはビックリして道行く人を捕まえては、ここに駄菓子屋さんありましたよねと聞いたが、答えは同じ。 前から空き地だったと……。 カナリア飴は残り二個。 その時、駄菓子屋のおばさんの言葉を思いだした。 カナリアは一日に一個 二個いっぺんに食べたらどうなるんだろう? だが、貴重なカナリア飴である。わたしはおばさんの言葉を守って一個頬張る。 あぁ、明日でこの声ともお別れか。 なんだか泣けてきて、泣きながら歌をうたってた。 最後の日、自分が無意識におばさんの言葉を守っていたことに笑い、最後の一個を食べて楽しい曲をうたって終えた。 次の日、普通にわたしは歌をうたっていた。下手でもいい歌が好きだから、うたっていた。
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