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「菱春さーん。菱春与太郎さーん」
・・・うん。大丈夫。大丈夫だ
「・・・はい!」
声が裏返ったり、大きかったりはしてなかっただろうか
診療室に向かいながら、顔は動かさずに辺りに目を配らせる
しん。と静まりかえった病院内に響く僕の返事に視線を向ける人はいない
当然のことだがこの事実が僕をひどく安心させる
「菱春さん。風邪ですね、これは」
僕のかかりつけの医者は聴診器や口内検査をした後にカルテを見ながら告げた
「おまけに熱もある。2週間分の薬を処方しておくからしばらくは安静にしておくようにね」
初老というのも怪しい顎にご立派な白髭を生やした医者はカルテにドイツ語(だったと思う)で症状を記録し隣にいるナースに手渡した
先日雨に濡れながら帰ったのが祟ったのか、季節外れの風邪にかかってしまったようだ
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