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「じゃあ、82ページの5行目・・・菱春読んでくれ」
その日はいつも通りに授業を受けていた
冬というにはまだ早い時期だったが、窓を揺らすからっ風は異様に寒く体が強張るのを感じる
教師に指名された僕は指定された文を読むために椅子を引き席を立つ
「徐に立ち上がった少年は、思い立ったがきちじt・・・」
一瞬クラスの時間が止まるのを感じる
どうも寒さで舌が回らない。普段ならなんてことない言い回しなのに、この日はやけに強敵に見えた
「徐に立ち上がった少年は、思いたってゃが」
気を取り直してもう一度読み直すが、今度は先程よりも前の部分で詰まってしまった
流石に二回目ともなるとヤジも飛ばされるもので、冷やかすもの、どうした?と心配するもの、ふふっと鼻で笑うもの、色々な反応が教室内を埋め尽くした
「どうした菱春。大丈夫か?」
クラスの雰囲気を見てか、教師が助け舟にも茶化しにもどちらとも取れる様子で窺う
「はい。大丈夫です。読めます」
クラスのヤジは極力気にせず目線を教科書に落とす
問題のフレーズは「思い立ったが吉日」だ
吉日・・・吉日・・・吉日・・・と頭の中で反芻し、いざと声に出して読む
それがいけなかった
「おもむりょに・・・」
ドッとクラス中に笑いの渦が巻き起こる
力んだことにより余計に舌が回らなくなった僕は出始めの言葉で噛んでしまった
ヤジや冷やかしの声が大きくなる中で、僕は初めて自分が緊張していることに気がついた
その事実に気がついたとたんさらに緊張が大きくなり頭が真っ白になる
そこから先はドツボにはまり、早口プラス緊張で何回噛んだか分からないほど悲惨なものだった
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