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翌朝。
「クルマのオイル交換をしてから、迎えに行くよ」
電話の向こうの彼はそう言う。僕は『あまり迷惑をかけてもいけない』と思いつつ、「せっかくだから」の言葉に納得して、時間の打ち合わせをしてから受話器を置く。
新潟を発つ日の朝。「うまいそば屋があるから」という事で、僕達は、そばを食べに行く事になった。
「うしろに乗ってよ」
本日も良い天気。
ホテルの前まで、かなり年季の入った軽自動車でやって来た彼は、そう言う。2ドアの助手席側のドアは壊れていて、開かないそうだ。
チェック・アウトを済ませてあった僕は、運転席側からリア・シートにもぐり込む。彼は、こういう細かい事には、あまり気を遣わない質(たち)のようだ。なにしろ彼は、僕達の間では評判が良くない面がある。
(と言っても、「仕事が出来ない」とか、「嫌われてる」という意味ではない)。
僕達と仕事をしている時、軽い接触だったが交通事故を起こしたり…出張の予定をピッタリ一ヵ月勘違いして、あわてて新潟から飛んで来たり…。
そんな感じなのだ。
後ろに僕を乗せた軽自動車は走りだす。僕は、『チョットそこまで』程度だと思っていたのだが…。
『なんかヘンだよ』
2ドアの、ましてや軽自動車ともなれば、前にふたり並んで座るのが普通だ。狭いリア・シートに押し込められた僕は、横座り気味に景色を眺めていた。
『オイルを交換してから…の意味がわかったよ』
なんと彼は高速に上がり、もうけっこうな時間、走っていた。
どこまで行くのか?…という僕の質問に、彼は「小千谷(おぢや)」と答えた。僕はその地名を、たぶん「つげ義春」氏の漫画か何かで聞いた事があった。
でも、特別「新潟」の土地勘・距離勘に精通している訳ではない。「ふ~ん」程度で聞き流していたのだが。
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