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新潟市から小一時間も走っただろうか? 僕達は、「小千谷」のインターで高速を降りて行く。でもここで、ひと騒動。
「免許証 拝見」
料金所の手前には、パトカーが一台。入口でシート・ベルトの取締まりをやっているのは度々目にする光景だが、出口にいるなんて珍しい。
でも、特に問題は無いはずだ。彼はちゃんとシート・ベルトをしていたし、後ろにいた僕だって、きちんとベルトを締めていた。が、しかし…
「あれ?」
彼は自分の身体を、あちこちたたき回す。
「ない! わすれた!」
…だって。
『なんてこったい!』
わざわざクルマのオイル交換をしてきたというのに、肝心な物を忘れてきたわけだ。
「免許証不携帯」
彼はクルマから降りて、しばしパトカーの中へと消えて行った。これでまたひとつ、新たな逸話が誕生してしまったわけだ。
(あまりに気が退(ひ)けたので、僕は無理矢理高速代を払った)。
「『小千谷の“ちぢみ”』って知ってる?」
意気消沈していたのでは、そばの味もよくわからない。
街はずれのそば屋を出た所で僕は、彼にそう尋ねてみる。僕の頭の中には『小千谷の“ちぢみ”』という言葉が、かなり以前から…これもたぶん、「つげ義春」氏の漫画によってであると思うのだが…インプットされてあった。それが何なのかは、記憶が定かではないのだが…。
「シジミ?」
彼はそう聞き返す。僕もそうなのだが、貝の「シジミ」を連想させる。
「違うよ。チヂミだよ」
彼は新潟在住十年近いが、出身は千葉なのだ。
「なにそれ?」
「たぶん、食べ物だと思うんだけど…」
僕は、「シジミ」の連想から、かってにそう思い込んでいたのだ。
「聞いたことないな…」
と彼。
そうこうしているうちに、国道に出る。そこで、ある看板が目にとまる。
「あ? あった!」
なんたる偶然だろう。
「道の駅―小千谷ちぢみの里」なんて書いてあるじゃないか。
「行ってみようか」
どちらからともなく、そんな話になる。
目的地からはそれていたが、僕達は「小千谷のちぢみの謎」を解く為、その「道の駅」に向かう事にした。
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