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「けっ、辛気くさい海。なんであたしがこんなことに付き合わなきゃなんないのよ」
苛立つ心を隠しもせず、若い女が金色に染めた髪を海風に揺らしながら吐き捨てた。
「…そういうことは言っちゃダメだよ。クラスメイトでしょ?ご冥福を祈ろうって約束したばかりじゃない」
穏やかに打ち付ける波のように、金髪の女をたしなめる同年代の少女。
見れば同じ制服を着ていることから、崖の上に立つ二人が学生ということがわかる。
「いーんちょー。もういいじゃん!あのバカ女にここまですることねーだろ?供養だってすんだだろ?あたしがワザワザ来てやってるんだぜ?ったく、単位をなんとかしてやるなんて言葉につられなきゃよかったぜー」
「そういう問題じゃないよ…貴女が直接的な原因じゃないかもしれないけど、私達のクラスメイトが自殺したんだよ?」
「だったらなんでみんな来ねーんだよ。おかしくねー?」
「…それは」
言い淀む【委員長】と呼ばれた少女は、現在、ショックを受け止めきれず精神病院に入院している彼女の母親から、面会の時に直接言われたことを思い出す。
(「…あなたがあの子を庇って色々してくれたことは感謝してます。でもね、許せないのよ、あの金髪!!今からでも手足と首を引き裂いて、浜にうち上がったあの子と同じ目にあわせなきゃ、私は狂っちゃうよ。ねえ、おばさんはおかしいかな。ふふ、ふふふ、ふは、ははははははっ!!ひゃは、ひゃは、ひゃはははははははははははははは!!!」)
すでに気が触れている彼女の母親をこれ以上苦しめるわけにはいかない。
そして、彼女の母親が口を開いて人間の言葉を話したのは、【委員長】に話したこの一回きり。
(私が仲立ちをしなくてはいけない)
誰に頼まれた訳でもなく、【委員長】は正義感から、彼女を執拗にイジメて自殺に追い詰めた金髪の少女をここに連れてきた。
形だけでも、供養をしたなら彼女の母親を救えるかもしれないから。
「ったく、黙ってんじゃねーよ。ああ、めんどくせー。ほら帰ろうぜ?」
心の底から供養をするという気持ちのない金髪が、後ろを向いたときだった。
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