第一話

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「ユキ、お前編入生と遭遇したらしいな」 「あれ。何故知ってるんだい?」 「クラスの奴が言ってたぞ。おめぇの事を心配しながらな」 「へぇ…それは有難いね」 俺は本から目線を外さず目の前で座っている友人、杜ノ塚秋彦(モリノヅカアキヒコ)の言葉に答える。 いや、有難いとは思っている。 それは本当だ。 ただ、今は読んでいる本に興味が注がれてしまっているだけだ。 本にしか集中していない俺から、アキが乱暴に本を掴み俺から奪う。 俺が本を取り返さないように片手で本を持ち腕を組みながらアキはじっと俺を見つめる。 本の方を見ると完全に閉じるのではなく読んでいたページの部分に指を差し込みどこまで読んでいたか分かるようにしていた。 細かな所まで気が利く彼特有の優しさだ。 「今は俺と話してるだろ」 「本も読みたかったかな」 「まぁ聞けって」 アキはハァと溜息をつく。 それが呆れからなのか怒りからなのかはわからない。 ただアキは溜息が似合うな、と思った。 軽く下に顔を向け、目線だけを俺に寄せてくる。 人によっては睨まれているようにも見えるのだろうけど。 俺はどう返せばいいかわからずに、ただ困ったように微笑んだ。 そんな俺を見てアキはまた溜息をつく。 その様子を見ていた周りのクラスメイト、特に可愛らしい子達は顔を赤らめ此方をチラチラ見ながら楽しそうに話していた。
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