第一話

4/76
前へ
/100ページ
次へ
「お前、噂だと編入生に気に入られたらしい」 「え?」 「取り巻き連中にユキの事を聞きまくってるんだってよ」 「んー…なんでだろうね?」 俺は眉を下げて、また口元に笑みを浮かばせる。 アキは「真剣に事を考えやがれ」と、俺にデコピンを喰らわせる。 デコピンされた箇所を指先で撫でながら、編入生君の事について考えるも、心当たりがない事はないが、昨日出会って自己紹介した程度、のものだった。 まさかコレだけで、と俺は軽く思い、フッと息を漏らす。 「不知火雪弥はいるか」 突如として教室の扉がガラッと大きな音を立てて開く。 教室にいる者殆どが、扉の方向へと首を動かした。 俺も皆の動きを見てから扉の方を確認してみると、薄らと見覚えのある顔が教室を見渡していた。 あの人は確か、昨日編入生君と一緒にいて、目が合った人だ、とぼんやりとだが思い出す。 俺がただボーッと彼の事をを見ていると、昨日同様彼と目が合った。 昨日と違う部分を挙げるとすれば、目が合った後真っ直ぐ俺の方に向かって来ているという事だ。 気のせいかいつもより教室はザワついていた。 「不知火雪弥はお前だな」 「ピンポンです」 彼が俺の前まで来ると、俺が座っている机に片手を乗せ、前屈みで俺を見据える。 射抜かれてしまうのではないかと震えてしまうほど、彼の眼光は鋭く光っていた。 そんな曇った空気を変えようと思い、俺は明るめに答えを返した。 俺の返答に彼は少し顔を顰める。彼の端麗な顔がクシャッと歪む。 彼から目線を外すと、彼の後ろには眼鏡を掛けた負けないほど眉目秀麗な男子生徒が立っていた。 確か後ろの彼も見た記憶があるのだが、それが何処でだったかは思い出せない。 二人共見覚えがある程度で、俺は彼らが一体何者なのか皆目見当もつかないでいた。 考えるかのように顎に指を添え、小さく唸る。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1403人が本棚に入れています
本棚に追加