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「…ここに連れてこられた理由をわかっているだろう?ってさっきから聞いてるんだ!」
「絢也、落ち着きなさい。そんなに興奮したら彼のペースに飲まれてしまう。思うツボですよ」
ずっと俺達をニヤニヤと笑いながらただ黙って見ていた眼鏡の彼が、初めて口を開いた。
見た目と同じで透き通った声をしている。
すっきりとした聞きやすい、良い声だった。
彼の言葉に生徒会長が「あぁ…そうだな」と答え、深呼吸をする。
その後また俺を睨んできた。
ここまでの会話で俺が得た情報は、生徒会長の名前が「絢也(ジュンヤ)」という事だけだった。
「んー……すみません、全く思いつかなくて。今まで会長と関わった事ありました?」
「フンッ…お前、紘夢に何をした」
会長が俺の言葉に対して鼻を鳴らす。
「紘夢…?あぁ編入生君の事か。今の所自己紹介した程度くらいかと」
「…昨日お前に会ってから紘夢がお前の話しかしない。
やたらとお前の事を聞いてくる。それが自己紹介した程度だと?
嘘をつくな」
「そんな事言われても、本当にそれしかありませんから」
会長達が何故俺をここに連れ出したのかようやく理解した。
と同時に、アキが俺を行かせんとする理由も理解した。
きっとアキはこの用事が編入生君関連のことだと気付いていたんだろう。
またやってしまったと落胆する気持ちは出てくるも、俺には少々楽天的な部分があるようで
「なんとかなるだろう」とすぐに切り替えてしまう。
だが、今の学園の状況を見て生徒会長が一般生徒を連れ出すんだとしたら編入生君関連の事だと簡単に思いつくはずなのだが。
アキに危機感がないと怒られるのも無理もない。
俺が編入生君の事について否定していると、眼鏡の彼が口を開く。
彼の口元は醜く歪んだままだった。
「どこまでも口を割らない気ですか。そうやって僕達を騙して紘夢を奪う気でしょう。絢也、こんな馬鹿には体に叩き込んでやりましょう」
「…あぁ」
眼鏡の彼の言葉に会長は了承の返事をすると同時に、拳を振り上げた。
俺は避ける事なくその拳を腹で受け止める。
その勢いで会長は一発、二発と体の至る所を殴ったり蹴ったりしてくる。
眼鏡の彼はそれを手助けするわけでもなく、ただ今までどおり、厭らしい笑みを浮かべながら様子を見てくるだけだった。
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