第一話

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そう彼に伝えると、会長はそのまま硬直してしまった。 俺は首を傾げて、彼の体制に合わせようとしゃがもうとする。 すると先程まで尻餅をついていた眼鏡の彼が突然立ち上がり、俺の肩を掴み無理矢理振り向かせると、頬を殴ってきた。 急に与えられた衝撃に俺は情けなくよろけてしまう。 よろけた俺を見て副会長はハッと乾いた笑いを零した。 「強がって適当な事言って!馬鹿みたいですよ」 そんな事を言われても感じないものは感じないもので、殴られた頬を触りながら眼鏡の彼の自信に溢れた顔を見た。 彼と目が合うと、彼の自信満々の表情は崩れ、みるみる青ざめていく。 何故って頬を殴られても俺が平気な顔をしているからだ。 それよりもコロコロと変わる眼鏡の彼の表情が面白くて俺はつい笑ってしまった。 同時に羨ましくも思う。 「馬鹿はどっちですか」 俺がゆっくりと眼鏡の彼に近付く。 「ちゃんと人の話聞かないと。馬鹿って思われちゃいますよ」 眼鏡の彼は狼狽える。 「それとも俺と喧嘩したいんですか?」 俺が笑顔を崩さずにそう伝えると、眼鏡の彼は小さく悲鳴をあげる。 「そうならそうと言ってくれないとわかりませんよ。俺はそういうのに鈍いんだから。でもお望みなら」 眼鏡の彼を壁まで追い込み、俺は壁に手を当て下から彼を覗き込む。 「お相手しますよ」 眼鏡の彼は今度はハッキリと悲鳴をあげると、俺を軽く突き飛ばし一目散に何処かへと走り去っていった。 彼の背中をぼんやりと眺めながら「なんだ…違うのか」と俺は呟く。 じゃあ何がしたかったんだと考え込もうとしたが、そういえば会長がいたんだと俺は振り向く。 会長は硬直したまま俺を直視していた。
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