第一話

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「ええと、大丈夫ですか?会長」 俺が会長に声を掛けると、会長はハッとして動き出す。 数歩下がって俺と距離を取ると、鋭くも怯えを含んだ瞳で俺を見つめてくる。 「そんな目で見なくても、喧嘩なんてしませんよ」 声を出して俺は笑う。 それにも会長は反応し、ビクッと体が跳ねていた。 そこから暫くの沈黙が流れる。ただ風の音と木々の音が、この場に流れていた。 「んー…用事は終わった感じで、良いですかね?」 と言って立ち去ろうとすると会長が俺の腕を掴み、それを阻止する。 震えながらも力強く「まだ終わっていない」と低音で呟いた。 俺は体の向きを会長に戻す。 「これだけ言っておく。紘夢に近付くな」 会長は額から汗を垂らしつつ、きつい眼差しで俺を見下ろしてくる。 「……?良いですけど……」 「……は?」 「用事ってそれだけですか?」 「え、あっそう、だが…」 「なんだ」 会長が口を半開きにして間抜けな顔でポカンとしているのを気にせず、一人満足し俺は「じゃ」と言って立ち去ろうとする。 それをまた会長に阻止される。 今度は先程のような威圧感はない。 慌てたような拍子抜けされたような、とにかく変な空気になっていた。 俺にはそれが何故だかわからず、早くアキの所に戻らなければと少し急ぎたい気持ちでいた。
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