第一話

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加害者の疑いを掛けられても生徒会長は今だに一言も言葉を発せず、ただ黙って俯いていた。 いや、まぁ加害者なんだが、俺はこの時なんとなくだが、会長を守ってみたいと思ったのだ。 守ってみたいというか、本当になんとなく「そういえばこの人偉い人なんだよな…」程度の考えなのだが。 「風紀委員さん」 生徒会長を連れて行こうとする風紀委員を俺は呼び止めた。 自分でも何を考えているかはわからない。 ただ「なんとなく」、そう思っただけだった。 それに俺は此れを彼のためだなんてひとかけらも思っていなかった。 ただ俺がそうしたかったからそう動いただけの、俺のいつもの自己満足だと思ったのだ。 俺に呼び止められた風紀委員はビクッと体を跳ねさせ此方に顔を向ける。 ただ目線は合っていない。 合わせようとはしているのだが、合うのは一瞬だけで視線はあちらこちらに泳いでいる。 俺はその動きがなんだか面白くて少しだけ微笑んだ。 「加害者は会長ではないですよ」 俺の発言に会長は下げていた顔をバッと上げ目を見開く。 まさか自分が殴った相手が庇ってくるとは思わなかったのだろう。 俺は適当に思いついた「架空の犯人」をでっちあげた。 「実は怪しい二人組が敷地内に不法侵入してて、それで俺は偶然鉢合わせて口封じされそうになってこうなったわけです。会長は助けに来てくれただけですよ」 「お前……」 「会長が追っ払ったら何処かへ逃げて行きましたよ」 我ながらスラスラと言葉が出てきて感心した。 「運が良かったかな」と困ったように俺は笑う。 風紀委員は顎に手を当てて考えた素振りを見せたあと 「わかりました」と言って何処かへ連絡を取っていた。 その間に俺は会長の元へと近付く。 会長は小声で話しかけてきた。 「何故だ…どういうつもりだ…」 「何故と言われても…俺がそうしたいから、としか」 「……は?」 「気にしないでください、俺の気まぐれの自己満足ですよ。きっと」 「…それは……っおい!」
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