第一話

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そんな烏丸先生を笑顔でスルーし着替えていると、廊下から慌ただしい足音が聞こえてくる。 途中ガンッという大きな音と共に足音は消えたが、暫くしてまた足音は慌ただしく響きだした。 足音が段々と大きな音に変わってくると保健室の扉が勢いよく開かれ、 俺のクラスの担任の葉鳥真琴(ハトリマコト)先生が息を切らし、且つ鼻をおさえながら入ってきた。 俺と目が合うと目に涙を溜めて駆け寄ってくる。 「不知火さん!不審者に襲われたって聞いて!私心配で心配で…!無事でよがったぁ~~!」 ボロボロと涙を流しながら、まるで自分が殴られたかのようにグズグズと泣いている。 泣いているのはいいが、鼻をおさえながらなのでどうも奇妙な姿だ。 俺はとにかく、笑う事しかできないのでただただ微笑む。 すると烏丸先生が溜息をつきながら口を開いた。 「葉鳥先生、いい歳のおっさんが大声で泣くな」 「ぐすっ、すみませんっ…」 「それと転んだのならさっさと言え。おさえてるだけじゃ何も変わらん」 「すみません…」 そうか、葉鳥先生は転んで鼻を打ってしまったからおさえているのか。 ではさっき廊下から聞こえた大きな音は葉鳥先生の転んだ音だったのか…とか一人で納得する。 葉鳥先生はドジだ。 誰もが認めるドジだ。 とにかく色んな所にぶつかる。 そのたび痛そうにぶつけた所をおさえ、小さく唸っていた。 見かけた生徒が心配になり声を掛けると、すぐにいつもの笑顔に戻り 「大丈夫大丈夫。先生こう見えても頑丈なんです」 と強がる。二日に一回は起こるイベントだった。 そんなドジに加え、お化けも苦手なので学校の癒し的存在だった。 もちろん顔も悪くない。 俺も先生は好きだ、と言うか、波長が合うのかお互いマイペースだからなのか、 お茶を飲みながらでゆっくり会話出来る相手の一人でもあった。 きっかけは俺が階段から転げ落ちてしまった所を、葉鳥先生が発見してくれて助けてもらった時だ。 今じゃすっかりお茶飲み仲間だ。 アキにはじいさんみたいだな、なんて笑われたけど。
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