第一話

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葉鳥先生の言葉に甘えて、俺は今部屋で本を読んでいる。 あの後、先生達にお礼を言い、 部屋に戻ろうとしたら神宮寺君に呼び止められた。 「あのっ…!君、僕のこと…っ!」 神宮寺君はどもりながら言う。 顔は耳まで赤く染まり、目は潤んでいる。 もしかしたら熱でもあるのだろうか。 俺よりも神宮寺君の方が保健室にお世話になったほうが良いのではないか。 俺は神宮寺君のおでこに手を当てて熱があるか確認する。 「神宮寺君顔が赤いよ。熱でもあるんじゃないかい?」 「なっ…!?」 「あ、手をあててもわからないか…」 手を当てても温度など感じる事は俺には難しいので、 それを知っても尚やってしまった自分が恥ずかしい。 手のひらをじっと見て「火傷はしてないな…」と呟くあたり、 分かりきった事をやってしまった事への羞恥心の表れなのかも、 とか思って一人で笑う。 神宮寺君はさらに顔を赤くして口をパクパク開いたり閉じたりしている。 まるで金魚のようだ。 やはり熱があるのではないだろうか。 よく見たらふらついている様にも見える。 そういえば神宮寺君に見覚えが有るような気がした事を思い出し、 気にもなるし折角なので彼に聞こうとすると 「べ、別に君に心配されなくても僕は大丈夫ですからー!」 そう叫んで神宮寺君は何処かへ走って行ってしまった。 と、思いきやまたすぐに此方に戻ってきて息を切らせながら言葉を発する。 本当に忙しい人だ。 「今回の不審者騒動の件でっ、今後君に話を伺うかもしれないからっ、  もしかしたらっ、風紀室に呼び出すかもっ、  なんでっ、頭の片隅にでも入れておいてっ、ください」 「うん、わかったよ」 そう言って微笑むとまた 「別に心配だからじゃなくて仕事なだけですからっ!!」 と叫んで走り去っていった。 今度こそ本当に何処かへ行ったみたいで、 少しその場で待機していたが戻ってくる気配はない。 面白い人だな、と思いながら俺は寮の自室へと向かった。
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