第一話

25/76
前へ
/100ページ
次へ
「不審者って何だよ…本当嘘つくの下手だなユキ…この学校がとんでもねぇ山の奥にあるの忘れたか?学校を囲ってるクソたけぇ塀は?警備の奴らは何してる?」 「嘘じゃない。本当に不審者が来たんだよ」 アキの顔からズルッと手が落ちる。 壁から背を離すとアキはソファに座った。 俺もアキに続いて向かい側へと座る。 「わかってんだかんなやったのは生徒会の糞共だってよ」 「……そっか」 「ハァ…何庇おうとしてんだか」 アキが今日一番の深い溜息をついた。 やはりアキは溜息が似合う。 「庇ってはいないよ。俺がそうしたかっただけだから」 「客観的に見て『庇う』っつーんだよ、お前がやった行動は」 アキは本棚に収まっていた国語辞典を手に取ると、俺に向けて投げる。 庇うで調べやがれ、と言ってきたので、俺は言われたとおり国語辞典で『庇う』について調べ始めた。 そんな俺をじっと見てきたアキだったが、暫くして俺の隣に座り、横から頭を包み込むように抱きしめてきた。 体がアキの方向に傾き、少々読みづらいが俺は構わず国語辞典を眺める。 「俺はお前が一番大事だ。それ以外なんてどうでもいい」 「…うん」 「お願いだから自分を大切にしてくれ。お前がいなくなったら…俺は…」 アキの抱きしめる力が強くなる。 さすがの俺も国語辞典を閉じ、アキの方へと目線を向けた。 アキは俺の肩に顔を埋めている。だから目が合うことはなかった。 そのまま俺は、されるがままにアキに抱きつかれていた。 「アキ」 「…なんだ」 「すまないね」 「…あぁ」 アキは暫く俺から離れなかった。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1403人が本棚に入れています
本棚に追加