第一話

28/76
前へ
/100ページ
次へ
「こんな朝早くにどうかしましたか」 「…その、な……け、怪我の具合はどうだ…?」 「あぁ、それなら殆ど消えかけてますよ。見ますか?」 「…あぁ」 俺はシャツのボタンを外し前を開く。 そこにはうっすらと青紫色のあざが数カ所に浮かんでいた。 会長は俺の体に浮かぶ痣をじっと見て、険しい顔をする。 くしゃっと顔を歪ませてまた目線を下に下げてしまった。 「会長怪我の様子を見に来たんですか?わざわざすみません」 俺はシャツのボタンを留めながら会長に礼を言う。 朝早くから律儀なものだなと思った。 俺の言葉に会長は下げていた顔を上げた。 表情は険しいままだ。 膝の上に作っている拳に力を入れているのだろうか、小刻みに震えていた。 「それだ…何故だお前は…!」 「え?」 「何故優しくする…!俺はお前を殴ったんだぞ…!何故責めない…!」 会長は先程よりも顔にしわを作り険しい顔をした。 泣きそうな顔にも見えた。 「お前に庇われたあの日から罪悪感が消えなくて…夜もろくに眠れない…!おかしいだろ…」 「罪悪感を感じているんですか」 「……」 会長の目の下の隈の理由はそれだったのか。 なんとも理解しがたい理由だ。 「それは良かった」 「…は?」 「暴力はいけない事ですもんね」 「お前、何言って…」 俺は「ね?」ともう一度会長に問いかけるように、にっこりと微笑んで会長を見つめる。 会長は戸惑った表情を浮かべていた。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1403人が本棚に入れています
本棚に追加