第一話

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ギリギリHRには間に合い、午前の授業は無事受ける事が出来た。 俺のお昼はアキが作ってくれる。 バランスの取れた彩りの良い弁当だ。 アキは見た目に似合わず手先が器用だ。 おまけに面倒見が良い。 不器用で料理ができない俺のために、忙しい時以外は俺の昼ご飯と夕飯を作ってくれる。 味は殆ど感じないから適当なものを最初は食べていたのだが、アキがバランス考えろと言っていつからか作ってくれるようになった。 今日も昼休みにアキが作ってくれた弁当を広げる。 今日も立派な弁当だ。 アキはトイレに行っている。 先に食べていていいと言われたので遠慮なく先に食べることにした。 「いただき「雪弥ーーー!!一緒に食堂行こうぜ!!」…ません」 耳がキーンと痛くなるほどの大きな声。 俺はせっかく広げた弁当を片付け、教室の入口を見た。 見ると編入生君とその取り巻きがゾロゾロと入ってきていた。 取り巻きは皆少し不満げな表情は浮かべているが、中でも副会長は不満と言うよりは怒りの表情を浮かべていた。 その不満がダダ漏れな取り巻きの中に、会長の姿は見当たらなかった。 「折角のお誘いだけど、俺は弁当だから遠慮しておくよ」 「えーーーー!!!何でだよ!!弁当なんてやめて俺らと食堂で飯食おうぜ!」 「…だってアキが折角作ってくれたんだ」 「一人で食べるなんて寂しいじゃん!!皆で食った方が楽しいって!!」 「今アキはトイレに行ってるだけで」 「じゃあそのアキって奴も一緒にこいよっ!!!だったらいいだろっ!?」 「アキの意見も聞かないと」 「良いって言うに決まってんだろ!!俺と一緒なんだから!!!」 どんな返答をしてもきっとこの子は納得しないんじゃないかと思うほど、編入生君は一歩も引かなかった。 此方の都合はお構いなしか。 確かに彼は噂通りの人間だったようだ。ついつい溜息をついてしまう。 その溜息にクラスの皆が喉を鳴らしたのは俺だけが知らない。
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