第一話

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「…俺の家は大規模の会社を経営している。  その会社の社長息子として、俺は幼い頃から大事に育てられてきた。  皆優しかった。家の人間も会社の人間もな。  俺を愛してくれているんだと思ってた。  だけどある日聞いてしまった。  皆ただ父さんの…社長の機嫌をとってるだけで、  俺の事は好きでも何でもない。  ご機嫌取りと出世の道具としか思ってなかった。  そしたら今まで優しくしてくれていた奴らが、  汚い物に見えてきて…耐えられなくて、  この学校に逃げるように入学してな。  …でも此処でも何も変わらなかった。  俺が東堂グループの社長の息子だと知ると媚び売る奴らばかりだった。  皆俺を見てくれない。  俺より向こうの会社を見ているんだと、  そう、思う事しかできなくなった。  そこから俺は誰も信じられなくなって、何もかも汚く見えて、  本当なのか嘘なのかも判らなくなってた」 会長がぽつりぽつりと語り始める。 最初出会った当初の会長の印象からは似ても似つかない弱々しく、 寂しい声だった。 俺は会長の話に黙って耳を傾ける。
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