第一話

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親衛隊達が出て行ってこの部屋には俺と絢也先輩しかいなくなり、急に静かになる。 その沈黙を破ったのは絢也先輩だった。 「…俺が俺でいられる方法」 「え?」 「名前で呼ばれる事で、俺も一人の人間なんだって感じられる。そう気付かせてくれたのはお前だ」 「えーと…俺は別に、俺のやりたいようにやっただけで」 「それでもいいんだ。俺には十分だ。おかげでこの2日、楽しいと感じれるようになった。紘夢を追い掛けていた時よりも、ずっと、皆笑ってくれる。それが俺は、嬉しい」 会長が俺の手を取り、笑顔で語る。 本当に別人のようだ。 この2日で本当に変われたようだ。 ただやはり2日で完全再起は無理だったか、今まで人が使うことのなかった生徒会室には書類らしきものが各机に溜まっている。 仕事を最優先で片付けるために掃除にまで手が行き届かなかったせいか、埃っぽい気もした。 「それで、お前に頼みたい事なんだが」 「あぁ、はい」 絢也先輩が俺の手を離し、生徒会室に備えられている高級そうなソファに促す。 俺がソファに座ると絢也先輩は横に腰を沈めた。 絢也先輩が座った振動が此方に伝わってくる。 高級そうな見た目通り、座り心地も良かった。 「生徒会の仕事を少し手伝って欲しい」 「なんでまた俺に」 「知り合いがいない」 「え?」 「どうしようか悩んでいたらお前の顔が浮かんだ」 絢也先輩真っ直ぐな瞳で此方を見つめそう言い放つ。 俺は微笑みながらそれは嬉しいですねと返す。 「…駄目か?」 先程の迷いのない瞳とは打って変わって不安を滲ませた顔で此方を見てくる。 特に断る理由もないがアキはどう思うだろうかと少し悩む。 無理ならいい、と絢也先輩は言うが俺は別にやっても良いと考えているから断るのも悪い気がする。 ただアキが相当怒るだろうなと思うと簡単にはいとも言えない。
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