第一話

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「何ボーッとしてんだ、ユキ」 「………んっ…アキ…?」 「寝てたのか」 首が傾く衝撃にゆっくりと目を開ける。 見上げるとアキがいた。 どうやら眠ってしまっていたらしい。 ボヤつく瞼を擦ってアキに焦点を合わせる。 周りを見ると此処はどうやら教室のようだった。 そう言えばあの後教室に行って、授業を受けて、終わってさぁ寮に帰ろうと思ったらアキが葉鳥先生に用があるとか言って、何処かへ行ってしまったから暇になって寝たんだった、と寝起きのぼんやりした頭で思い出した。 「ユキ、夢でも見てたのか?」 「え?」 「なんか呟いてたぞ。ブツブツと」 「ん~…よくわからないや」 俺は首を傾げて笑顔で答える。 アキは俺の机の向かいに座ると、俺の頭に手を置いてクシャクシャと撫で回した。 「葉鳥先生の所に行っていたんだよね?」 「あぁ」 「何しに行ったんだい?」 「…あ~~~~…アレだよ、一般生徒の生徒会室入室許可証を簡単に出すんじゃねぇって、怒鳴ってきた」 アキは頭を掻きながら視線を泳がせて言う。 葉鳥先生がアキに怒鳴られて涙目になっている姿を想像しておかしくなり、口元がつい綻んでしまった。 「しょうがないじゃないか、今回は普段とは色々状況が違うんだし」 「…っけどよぉ…」 「それに絢也先輩、俺達が手伝ってあげて嬉しそうだったよ」 俺がそう言うと昼休みの時同様、教室に静寂が走る。 今度は足音ではない。 外から聞こえる鳥の声と、部活動に励む運動部の声が、赤く燃える夕焼けに溶けていった。 窓の外を見つめると、夕焼けの眩しさに目が眩む。
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