第一話

54/76
前へ
/100ページ
次へ
「嬉しそうだったね」 絢也先輩の嬉しそうな笑顔を思い出してまた笑ってしまう。 そういえば、彼の頬はこの夕焼けのように赤く染まっていた。 アキの方に顔を向けると、アキはつまらなさそうに顔をぶすくれさせていた。 「どうしたのアキ。まるで子供だ」 「…うるせぇ」 アキが顔を隠すようにそっぽを向いてしまった。 そんな姿にも俺はついつい笑ってしまう。 静かな教室には、小さな笑いもよく響き渡るものだ。 今日はよく笑う日だなとしみじみ思う。 「ねぇ、笑えるって事は幸せって事だよね」 「ん?」 「俺今、幸せなんだろうね」 「…当たり前だろ。だって俺が一緒なんだからよ」 「あっ、俺様だ」 そう笑うと「会長と一緒にすんじゃねぇ!!」と肩を揺さぶってくる。 それが楽しくてずっと笑っていると、アキも釣られてかぶすくれた顔を緩め笑ってくれた。 アキが疲れて揺するのをやめると、彼の息遣いだけが聞こえてくる。 俺は息を切らさずに少し乱れた制服や髪を整えた。 「絢也先輩の事、また手伝ってあげようね」 俺がそう言うと、アキは溜息をついた。 本日何度目かの溜息。 重みのある溜息だった。 「お前なぁ……」 「…何か変な事言ったかい?」 「…いや、まぁ…変じゃねぇけどよぉ……」 「アキが嫌なら俺ひとりでも――」 「それは絶対駄目」 アキが言い終わると同時に窓から風が吹き込んできた。 風に吹かれて髪が頬に触れる。 そのまま風に任せていると、アキが俺の髪に優しく触れてきた。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1403人が本棚に入れています
本棚に追加