第一話

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夕日が姿を隠そうとし始めたくらいで、俺とアキは寮へと戻った。 アキはいつも俺の部屋まで送ってくれる。 別にいいのに、アキは「俺がそうしたいから」と答える。 今日もアキは俺を俺の部屋まで送ると、満足したように自分の部屋へと向かう。 お互いおやすみと挨拶をし、アキの背中を見送ったあと部屋に入った。 玄関を見ると誰かの靴がある。 どうやら同室者が帰ってきていたようだった。 俺も靴を脱いでリビングへと入る。 俺が扉を開けると、先にその場にいた人物が音に気付いて此方へと顔を向けた。 俺の同室者の一之瀬奏汰(イチノセソウタ)だ。 彼は俺と目が合うと直ぐにそっぽを向いた。 「…帰ったんだ」 「うん、ただいま」 「……」 一之瀬とは2年になってから同室になった。 最初の挨拶をした時から、一之瀬はこの様に素っ気ない態度だった。 編入生君がこの学校に来てからは特にそうだった。 噂によれば彼も編入生君の取り巻きのようだから、それもあって俺の事が気に食わないのかもしれない。 一之瀬はソファに座って携帯を弄っているようだった。 それだったら自分の部屋で弄れば俺と顔を合わせなくて済むと思うのだが、きっと油断していたんだろう。 黙ってスマホを操作している彼だったが、俺が自分の部屋へと入ろうとすると急に話しかけてきた。
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