第一話

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前へと進む程にガヤガヤと大勢の人間の声が近くなってくる。 自分よりも何倍も大きいであろう頑丈そうな扉を開けると、大勢の人間の声が耳に直接届くようになる。 目の前に広がるは沢山の生徒。 ある者は食事を楽しんでいたり、ある者は仲間との会話に花咲かせていたり… 俺は目の前の光景に胸を躍らせた。 こんなにも沢山の人間がこの広い空間の中集まり、楽しそうに食事を取っている。 たったそれだけでも、俺には大きな事であった。 俺は少し興奮したようにアキに問いかける。 「アキアキ!あれは何だい?何か小さな紙みたいなものを持って並んでいるね」 俺に急に裾を引っ張られたアキは、戸惑いながらも答えてくれた。 「あ、あぁ、あれは食券つってな。それをあそこにいるおっさん達に出すんだ。そしたら食い物と交換できる」 「へぇー…面白いね……やぁ、並んでる皆、お腹が減ってる時のアキと同じ顔だ」 声に出して笑うとアキが「やめろ」と言いながら頭を軽く叩いてきた。 そんな俺達を取り巻き達は鬱陶しいそうに見てくる。 絢也先輩はと言うと目を細めて微笑んでいた。 そんな中一人だけ、回りと雰囲気というか、作る表情が違う者がいた。 今日初めて見かけた取り巻き集団の一人、黒縁眼鏡君だった。 彼だけ顔を赤らめ鼻息荒く口元を押さえている。 興奮している、というのか。 編入生君も随分面白い子に惹かれたものだと思った。 しかしよくよく考えてみれば彼だけ編入生君に腕を引っ張られて来ていたような。 その時は随分とげっそりしていたような。 今は妙にツヤツヤだけれど。 まぁ彼らの事情は俺には関係ないし、何だか面白い子、で留めておく事にした。
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