第一話

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「ユキッ!!!」 俺の名を叫び駆け寄ってくるアキよりも俺はまず黒縁眼鏡君を確認する。 ゆっくりと優しく俺の上から黒縁眼鏡君を下ろすと、彼の顔を覗き込んだ。 彼はピクリとも動かなかったが、鼻に手をかざすとちゃんと息をしていた。 どうやら気絶しているみたいだ。 まぁ無理もないだろう。 「ユキ…頭から血が…お前ぶつけて…!」 「アキ、俺よりもこの子を保健室に運んでくれないかい」 俺がアキに目線を向けずにそう呟く。 「だけどユキ…!」 「アキ」 「……」 「お願い」 俺が強めにそう言うと、アキは黙って黒縁眼鏡君を背負ってくれた。 「お前もちゃんと来いよな…」 「うん、わかってる」 アキが保健室へちゃんと向かった事を確認する。 手で後頭部に触れてみれば、ヌメリとした感触と鉄の匂いが鼻をつく。 触れた手を見ると赤黒い血で指が染まっていた。 その血を隠すように手を握り締めて、階段上へと目を寄越す。 そこには戸惑う生徒会役員と怒りに震える編入生君。 そして無表情の一之瀬。 「不知火!!」 絢也先輩が俺の名前を叫んで俺に駆け寄り後頭部を覗き込む。 「お前も早く保健室へ行こう」 「それよりも編入生君を…」 俺がそう言うと絢也先輩は先程血が付いた手を強く握り締めてくる。 「ダメです絢也先輩、血がついて――」 「何言ってる!お前の方が大変だろ!!」 絢也先輩は俺の手を握り締めたまま歩き始める。 いやそれより。俺よりも先ず……… 編入生君に教えてあげなくちゃ。 駄目だという事を。
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