1411人が本棚に入れています
本棚に追加
血の滑りを利用して絢也先輩の手から抜け出す。
絢也先輩は急に腕が軽くなったせいか前へとよろけていた。
「不知火!」
絢也先輩の静止も聞かず、俺は階段へと向かう。
下から編入生君へと顔を向けた。
「駄目だよ人を押しちゃ。危ないだろう?」
「うううううるさいっ!!!!俺は悪くない!!全部智晴(トモハル)が悪い!!俺の言うこと聞かないから!!」
「仲良くしたいって気持ちは良いと思うけどね。考えの押しつけはどうかな」
「うるさい!!うるさいうるさい!!」
地団駄を踏んでうるさく泣き喚く編入生を押しのけて誰かが俺を見下ろす。
「一之瀬…」
一之瀬が凍えるような冷たい眼差しで俺を見つめていた。
「びみょー……」
小さく呟くとカツンと軽い音を立てながら一之瀬は階段を一歩一歩降り進んでくる。
先程までとは打って変わって静まり返った食堂には良く響き渡る。
俺の前まで来ると後頭部へと手を回し、グイッと俺を肩まで引き寄せてきた。
「予定より道は狭まったし遠ざかったけど………まぁいいや」
耳元でそう囁くと俺から離れ、後頭部に回したせいで血に塗れた手を一之瀬は眺める。
真っ赤に染まった手を確認すると一之瀬は満足そうに笑う。
「痛そうだな」
「そうでもないよ」
一之瀬はグッとその手を握り込むと、口元へと寄せる。
ニィと目と口を同時に細め、三日月のように歪ませた。
「もういいだろ不知火…行くぞ」
「奏汰!!!雪弥なんてほっといて飯食おうぜ!!!」
お互いが呼び掛けられ、そのまま引き離される。
絢也先輩は今度は俺が逃げないようにしっかりと俺の手を握り締める。
横目で一之瀬を見ると、彼は嬉しそうに笑っていた。
最初のコメントを投稿しよう!