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お継母さんに連れられて、蛍がやってきた。
おじいちゃんという立場にある親父さんは、蛍を抱くと、それはもう優しい顔になった。
「一生、蛍の面倒を見るのもいいと思っていたんだがな」
そう言って、少しだけ寂しそうに微笑む。
蘭子は隣で涙を流していた。
もちろん、蛍に気付かれないように、隠れて。
「…最後に、蘭子の涙を見たのはいつだったかな。私もね、反省していたんだ。蘭子の気持ちを考えずに、決めてしまったものだから」
そう言って、別の部屋にいるお継母さんへと視線を向けた。
すると、何かを抱えたお継母さんが顔を出す。
「蘭子ちゃん、お化粧直ししなくちゃ」
着物を着せてくれたのも、髪を結ってくれたのも、お継母さんだったらしい。
蘭子は「はい」と涙を拭くと、素直にそれに従った。
「蘭子、泣いてるねー?」と蛍が言う。
親父さんはそれを聞いて、「今日はお祝いの日だからね」と優しい顔で伝えた。
「もう式典は始まってしまったね。ちゃんと中で講話を聞くつもりだったんだろう?」
親父さんは俺を試すように言った。
「それは、…もちろん」
ちょっとだけ嘘をつく。
そう返事をした俺に、親父さんは再び笑った。
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