762人が本棚に入れています
本棚に追加
/352ページ
それを聞いて、親父さんが腕を組み直す。
じっと何かを考え込む仕草をした。
「……わざわざ早急に、こんなことを言いに来たということは、蘭子の周りで何かあったのだね?」
お義父さんの問いかけに、俺は蘭子へと視線を向けた。
蘭子は嗚咽を堪えながらも、ゆっくりと口を開いた。
「…最近、あの人に会ったの…。蛍と一緒にいる時に。あの人、それであたしに……結婚を迫ってきた。今更」
「何だと?」
「蛍の親権を取るとか何だとか……。それを、景くんが知って…それで、こんな…っ」
「逸って挨拶に来たというわけか」
親父さんは呆れたような、感心したような口調で言った。
「…荒木くん」
「―――はい」
「君は、蘭子を守りたいと言ったね?」
「……はい。」
小さく、でも力強く返事をする。
俺の気持ちが少しでも、親父さんに伝わってほしいと思った。
言葉にできないくらい、蘭子のことを大切に思っている。
これからも、ずっと。
蘭子の傍にいたいと思っている。
「就職が決まったら、また来なさい。今は判断基準にも達していない。返事など出来るはずがない」
「―――。」
分かっていた、結果だった。
だけど、就職が決まるまで、待ってなんか居られなかった。
裕明が先にやってきたら、もう出る幕なんてないと思ったから。
でも。
「――ただ。君の気持ちはありがたかった。蘭子を守りたいと言ってくれてありがとう。だけど1つだけ、間違っていることがある。
私が簡単に、あの男に蘭子を渡すと思ったのか?一度蘭子を傷つけた男に、この私が?
まだまだ君も親父の心というものは分からなかったようだな」
そう言って、高らかに笑った。
本当に、心から笑っているようだった。
「蛍、こっちに来なさい」
そうして優しい声で、蛍を呼んだ。
最初のコメントを投稿しよう!